4月5日、醍醐の桜は見事でした。
私の目の前を老婆を乗せた車椅子を押して親子が三宝院から五重塔前に向かっていました。老婆は五重塔の前まで瞼を閉じていました様ですが、やおら目を空けて呟かれました。
「おやまあ!此処はもう天国のようじゃな!」
「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけらまし」
これは業平の歌です。
散ればこそいとど桜はめでたけれ 浮世になにか久しかるべき
桜が咲けば天国、散る姿も美しいモノです。
車椅子の老婆は空を埋め尽くした枝垂れ桜が天蓋のように見えて思わず天国と見違えられたのでしょう。
これは醍醐の花見図屏風です。お茶屋は各藩に競わせて秀吉が巡ります。お茶屋の前で秀吉と北政所寧々を接待しているのが藩主でしょう。お茶屋の中にいるのがその正室で秀吉が下付した上衣を着ています。
以前NHKのヒストリアで醍醐の桜を観た記憶がありました。
秀吉はその全盛期に吉野に桜を観に行きます。でも京都から吉野は距離があります。危険でもあります。そこで醍醐に桜のテーマパークを作ることを思い立ちます。
廃れてしまった古刹を再興し、その周辺を桜の木を移植させたのでした。桜を愛でるだけでは済みません。大名の御婦人方には美しい錦の上衣をプレゼントし、お花見コースにはお茶屋を設え。天幕を張って、歌舞音曲を催し、美食の限りを尽くします。
池には鯉や鮒を放ってこれを捕まえさせます。ご婦人方は魚掴みを観ても歓声をあげます。醍醐花見図屏風には人間の欲望の五感を満たす様子が描かれています。
ヒストリアでは御婦人方の満足感を説明したうえで、秀吉の杯を受ける順番で大揉めした事を解説しました。
秀吉の杯を最初に受けるのは北政所の「寧々」さんは問題ないのですが、二番目以降側室の順番が揉めます。淀君は一歩も譲りません何しろ信長の孫であるという自負もあるし世継ぎを産んだ事実もあります。側室同士がいざこざを起こしたのを収拾させたのが加賀の正室「松」だったと云うのでした。
花見は良し、花見酒も、踊りも、お洒落も良伊でしょう。日本人なら「花見風呂」も浴びたくなるものです。湯船から花見をするのも良し、湯船花弁が散ったらさぞかし風流でしょう。
そんな思いも在って花見の後はお風呂に向かいました。
目標は「醍醐の湯」と云う公衆浴場でした。宿は伏見稲荷の町屋にしていたので午後3時過ぎに風呂に入ってユックリ伏見稲荷の街を楽しんでお好み焼きで一杯やって締めは「酒粕ラーメン」でなんてプランしていたのでした。醍醐寺からはそれほど遠くないビルの1階に「醍醐の湯」がありました。
これが醍醐寺に遠くない街中にある銭湯の「醍醐の湯」です。
私は回復基調と云え未だ着替えはモタモタたしてしまいます。シャツを脱ぎながら一寸隣を観るとドキッとしました。隣のお兄さんの背中には立派な龍の入墨が彫られているのです。私の浮かれた気分は一瞬にして沈みました。浴場に入ればもう一人入墨のお兄さんがいます。私は醍醐の花見に醍醐のお風呂も楽しもうと思っていた膨らんだ風船のような気分は瞬時に萎んでしまいました。帰り際に店主に訊いてみました「入墨のお客さんは入場を断れないのですか?」
答えは次の様なモノでした。公衆浴場法では病気でもあれば入浴を断れますが入墨では断れません。入墨如きで差別は出来ないのです。ゴルフ場やスーパー銭湯は公衆浴場法に準拠していないので。自由にお客さんを決められますので、「入墨お断り」が出来るのです。
でも、この辺りの入墨さんはキチンとしていますから怖い事はありませんよ、何かあったら直ぐに警察に通報されると承知していますから・・・・・。云います。
2日目は中々ヘビーな行程でした。
夕方4時過ぎに海住仙寺を下って山城郷土博物館を観て笠置に向かいました。宿は笠置から見れば木津川を挟んだ北側の和束ですから、明るいうちに笠置温泉で一風呂浴びて険しい山道を農家民宿を探して廻らなければなりません。覚悟はしていたのでしたが目標の民宿に行き当たらず大困難でした。
このことは後で書く事にして今日は笠置温泉です。
これが笠置温泉のポスターです。
木津川の南側笠置寺の麓にあります。前の道を南に下れば柳生に着きます。何度も通った道ですが桜の季節は初めてです。第三セクターの温泉施設かと思っていましたが思いの外大きな箱モノです。人口4千人の村にしては立派すぎます。職員に訊けば運営は民間に委託しているのだそうです。後で訊けば一昨年は出生数ゼロだったそうですが、昨年久々に母子手帳が一冊公布されたので今年は子供が確認できるだろう・・・との事でした。
ところで温泉施設です。
「入墨お断り」の掲示はしっかり出ていました。村民本位の施設だからお客をチョイス出来るのです。
大きな湯船に打たせの湯が二つ、ジェットバブル風呂が3つ並んでいました。他にサウナもあります。
ジェットバブルに横になった迄は快適でしたがジェットバブルから立ち上がろうとした時に気付きました。湯船の底が滑って立ち上がれないのです。大いに慌てました。笠置温泉の湯質が滑々していることに加えて温泉に溶けているミネラルが湯船の底に沈殿して滑りやすくしているのでしょう。
これが笠置温泉の浴室です。
「入墨お断り」の掲示のしてある脱衣室
笠置温泉施設のフロントと靴のロッカー
これは笠置温泉ワカサギ荘の玄関人口4千人の施設にしては過大に感じます。
もうじきオリンピックです。世界中から来るお客さんに日本をエンジョイして貰わなくてはなりません。
入墨に関する日本人の感覚は厳しすぎる様に思います。日本では入墨をした人はヤクザであって暴力団の組員と思っています。銭湯の所管は厚労省で「公衆浴場法」を立法しています。一方温泉は国交省が所管です。健康に楽しんで温泉に浸かって貰う為には「入墨のある人の入場制限」を認めているのでしょう。
タツーをしている女性が温泉に入ろうとして断られたら気の毒です。所管は別として温泉も銭湯もスーパー銭湯もゴルフ場のお風呂も皆同じです。皮膚病伝染の危険など無ければ誰でも入れるようにすべきでしょう。
笠置の温泉は滑ってしまいましたが屹度お肌スベスベ美人の湯なのでしょう。何しろ軟水ですから・・・。