東海道を戸塚宿までくだり、冨塚八幡宮前を東に折れると浦賀道に入ります。
我が家はこの分岐点に程近い所にあります。
浦賀道の終点は浦賀奉行所、その終点近くにあるのが「西叶神社」です。
私は浦賀に度々出かけますが、その度ごとに新しい発見があります。
西叶神社も再三参拝しますが、今回も新しい感動がありました。
(西叶神社、南から見上げる)
叶神社は平安時代末期、文覚上人が上総鹿野山に籠もります。
そこで、京都岩清水八幡宮のお告げを受けて、西叶神社を建立します。
祭神は八幡宮と同じ応神天皇、源氏の再興を願います。(1181年)
天保八年(1727年)火災に見舞われます。
西浦賀の親方衆(干鰯の回船問屋など)は焼失前の社殿を上回り、
更には対岸の東叶神社に勝る社殿を建立する事にしました。
そうして、天保13年(1732年)再建されたものが権現造りの現社殿でした。
(西叶神社の拝殿外陣の天井を埋める彫刻、此方は様々な龍の姿が描かれています)
元々、浦賀は山は高く、入江は深く、平地が少ないので、大きな神社は建てられません。
小さくても荘厳な神社を建立したいと思えば、彫刻などに力が入ります。
総建築費3000両、(米価で換算1.8億円。労賃で換算12億円)を要したと伝えられています。
そのうち社殿の内外装飾彫刻を受け持ったのが、安房千倉の後藤利兵衛橘義光、未だ二十代の若者でした。若い利兵衛は張り切って、魂魄を込めて鑿を振るった事でしょう。
請負代金は411両であったと伝えられます。
江戸彫刻については茂右衛門さんのブログに詳しい。
(本殿切妻部分はさながら彫刻の展示場)
多くの見学者も拝殿の彫刻を見て感心して帰ってしまいます。
私も何時もは同様でしたが、今回は拝殿から本殿に回り、建物の細部を見てみました。
本殿は切り妻です。沢山の妻飾りが彫刻されています。
私は、屋根上の千木、鰹魚木、反った屋根を飾る破、二手先の組み物、目線を上から下に下ろしてゆきました。
切り妻の平行垂木のその奥は日陰になっています。
そこで発見しました。
力士が蹲っているのでした。
大棟を担いで、太い梁に乗っています。
眼をむき出して、大屋根の重みに耐えています。
浦賀には大相撲も興行され、人気の雷電も寺の境内で力を見せ付けました。
(本殿北側切妻で大棟を担ぐ力士像)
相撲は建御雷神(タケミカヅチノカミ)と建御名方神(タケミナカタノ カミ)との力較べに始まると言われます。
力士が文化史に出てきたのは鎌倉時代でしょう。
お寺の山門には金剛力士像が祀られ、境内には力士が灯篭などを支えて、闇を照らしました。
(天灯鬼。龍灯鬼/興福寺国宝)
江戸時代になると全国各地で神社仏閣が再建されました。
左甚五郎は全国各地で力士像を刻みました。
力士像は梁に乗って神社や本堂の屋根の重みを支えています。
でも、甚五郎のは何れも小像で、間斗束に代わるデザインものでした。
でも、西叶神社本殿の力士像は大きく、中々の力作で、名品であります。
(本殿南切妻で大棟を担ぐ力士像)
最初に北側で見つけました。ならば南側にも・・・・・、確かにありました。
右肩から左肩に代えて、
でも、割れ目が入っています。
痛みも気になります。
内陣を覗いてみました。
「花と鳥」の組み合わせが、格天井の一枚一枚に刻まれています。
見上げていると楽しくなります。
「梅に鶯」「笹に雀」「柳に燕」位なら誰でもしっているでしょうが・・・・・・
「撫子にヒバリ」「萩に鶉」などを見つけると、なるほど感心してしまいます。
ならば・・・・・桜には?・・・・三光鳥(山鵲)がセットされています。
利兵衛は毎日画帳を携帯し、スケッチを重ねて、それをこの天井彫刻に写したのでしょう。
花と鳥は日本の美意識「花鳥風月」によって育てられ、研ぎ澄まされてきたもの。
まさに、神社の天井を飾るには最適でしょう。
薄暗くて、写真は撮れませんでしたが、西叶神社のホームページを検索すれば30枚もの写真が確認できます。
外陣の彫刻は龍ばかりです。
明るいので良くわかりますが、傷んでいて、悲しい状態です。
平行垂木の天井板がもう踊ってしまっていて、暗い天井裏が透けて見えています。
200年前の浦賀は相州第二の都市、栄えていたのでしょうが、今の浦賀はマンションが目立つベットタウン。
頼みの浦賀ドックも操業していません。
マンション住人は氏子ではないでしょうから頼みになりません。
旦那衆はもう居ないのでしょう。
(傷みの激しい拝殿外陣の天井)
折角の文化財が自分世代で傷んでしまうのは実に悲しいものがあります。
是非、力士像、そして内陣の格天井、見学されることをお薦めします。
(拝殿内陣の天井を飾る「花鳥図」彫刻)
(上から 「桜に山鵲」「柿に百舌」「蕨と土筆に雉子」全部で60枚はあります)
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