私は乱読家で4冊/1週間は讀みます。知的好奇心が尽きない事と今まで抱えて来た疑問が読書によって氷解する事が多いのです。先月旅行した福島でも磨崖仏を視て、こけしを視て民話に接すると。古代も中世も人間を脅かす災厄の最大なのは「病気」だと思いました。信仰の核は「薬師如来」であり「不動明王」でした。不動明王は病気の根源である厄(病原菌)を焼き払う守護神であったのでしょう。最近読んだ書物の中で一番の書物は「ダニエル・イー・リバーマン」著の「人体600万年史」でした。
これがダニエル・イー・リバーマン著の「人体600万年史」です。
【人体600万年史の骨格】
現代は人類が地上に出現してから600万年になる。この間1世代20年とすれば人類は300万世代を交代した事になります。生物は外部環境に適応する能力が在って此れを「自然適応」と呼びます。してきました。人類の外部環境としては「氷河期」「温暖期」等の気候変化も在れば「産業構造」や「社会の変化」も在ります。人類は旧石器時代を経て集住し農業を営む様になりました。この変化が最初の外部環境の大変化で4大文明の発生は今から200万年前に始まりました、日本では精々3千年前です。世代に換算すれば150代前です。生物の自然適応はDNAの変化によって引き起こされますから。現代人のDNAは石器時代のそれと大差ないのです。人類の病気はDNAと外部環境の変化との間のミスマッチが原因です。何世代も経て外部環境の変化にDNAが即応すれば、病気に耐える人類になる筈です。
人類のDNAゲノム、この微妙な変化が人類の自然適応を促してくるのです。写真出典:科学博物館の展示「人体」
未だ人類は飢餓を襲れて栄養分を人体に蓄積しているのです。食料の不足に対応する為旧石器時代人は脂肪分を皮下や内臓にに蓄積する様になっています。人類にとって最大の問題はのは飢餓対策でしたから、飢餓対策の進んだ人類が繁栄して来たのです。古代の美人に小太りの人が多いのはお乳が豊富に出る事、寒さに強い事、飢饉になっても耐えられる事です。
此れは縄文人です。狩猟生活を送っていた縄文人は脂肪分を蓄えられるDNAを有していました。中性脂肪メタボ等現代人の大敵脂肪過多は縄文人時代に培ったDNAが原因です。写真出典科学博物館の「人体」展
古代人は集住する事によって経済利益はゲット出来ましたが、伝染病には極端に弱くなりました。集住により不潔になった事、鼠等病原菌の宿主が急増したのでした。日本では肺病やペストが流行りました。
藤原道長像NHKテレビでは道長は糖尿病であり、ストレスにも悩まされていたと報じていました。
現代人が未だに旧石器時代や縄文時代のDNAを持っているのに対し、現代人は産業革命の大変革を経て、肉体労働をしなくても大都市に集住して快適に美食を楽しめるようになりました。その結果、不潔が原因の肺病やペストの大流行こそ抑制できたのですが、新しいタイプの病気が蔓延してきました。それが「心臓病」であり「糖尿病」や「癌」等現代病と云われる贅沢病です。
5月15日上野の「科学博物館」に「人体」展を視て来ました。第一印象は人体は摩訶不思議で同時に「綺麗な組織だな」思いました。既にNHK総合テレビで「山中教授とタモリ氏が展覧会を紹介していて、私はテレビを観ていましたが、改めて展示を視てダニエル・イー・リバーマン氏の著書に同感したのでした。
現代医学の「生科学」はダビンチの人体の客観観察からスタートしました
【生科学の限界】
現代日本人は医療に関して三つの観念を持っています。古い順に云えば「神道や信仰に基づく医療観」です。それは病気を穢れが原因とする考えで「祓い」や「浄め」の神事で健康を回復させます。第二は「漢方」に基づく医療観です。人体は常に「陰陽」二つの力で引き合っていて。常態は均衡しています。均衡状態を「未病」と呼び、「陰」に引っ張られれば病気になります。「陽」に至れば健康です。医療は「陰」の人体を「陽」に導く行為です。針も灸もそのツールです。第三は「生科学」です。細菌や病巣と云った原因があって病気という成果が在ると云った「因果律」を基本にします。近現代の医療は欧米の医学を日本に導入して発達してきました。
サリドマイドにスモン、HIVに、薬害事件は後を絶ちません。最近ではインフルエンザの治療薬として服用したタミフルの薬害も社会問題になりました。強い薬が人体に悪影響を及ぼす懸念は消えません。
しかし、そのツールであった抗生物質をはじめとした医薬品が幾つもの「薬害」を呼び起こし、病原菌も抗生物質の効かないタイプが現われて来ました。私も脳梗塞の再発を防ぐ意味で毎食後「プラザサキ/血液をサラサラにする薬」を飲んでいます。副作用が心配です。
生科学の限界を意識する反面で「漢方」が見直されてきたようです。「因果律」を否定する勇気はありませんが、生科学は病巣と病原菌だけを視ていて、病原菌を殺すか病巣を手術除去する事に集中しています。一方漢方は人体は「未病」状態が通常で、陰に行き過ぎれば病気で陽に至れば健康と判断します。人体そのモノノ他、外部環境にも関心が及んでいます。生科学が顕微鏡やエックス線やCTスキャン等で病巣だけを見詰めているのに対し、漢方は複眼的視点が顕著です。
科学博物館の「人体展」のハイライトは『人体の各器官が相互に情報を遣り取りしている』と云った展示でした。最後の展示ルームの天井に「心臓」「骨」「肝臓」「腸」等の器官を図示していて、器官間を神経や酵素やリンパを使って情報交換をしているというのです。例えば炭水化物を摂取すると一般に血液中の糖分が上昇します。「食後糖分が急上昇した」情報は腸が食べ物が触れるとすい臓に「インスリンを出せ!」という指令を出し、血糖値が上がる前から素早くインスリンを出させて血糖値の上昇を抑える仕組みのことを模式的に表しています。また、このとき腸が出している指令とは「インクレチン」と呼ばれる腸のホルモンのことです。インクレチンは、腸が食事を吸収する時に腸から分泌されて、すい臓のβ細胞に働きかけてインスリンの蓄積・分泌を促進させる働きがあります。この仕組みは私たちの体に元々備わっており、減量手術や腸内細菌の影響でより強く働くことがわかっています。
科学博物館の「人体展」の最後のルームの天井には人体の模型図が展示されていました。「心臓」「腸」「骨」「筋肉」「膵臓」等の器官が在って相互に神経やホルモンやリンパが情報交換のパイプになっているというのです。
此れは腎臓です。
此れは小腸だそうです。腎臓も小腸も摩訶不思議で美しいと思います。
此れは科学博物館の「人体展」のインスリンの説明をしたパネル。腸の絨毛で炭水化物を識別すると膵臓空インスリン(ホルモン)が分泌される血液中の糖分は筋肉や脳に蓄積されます。この仕組み自体が旧石器時代は有効だったものの。現代では血栓を作り動脈硬化の原因になっているのです。
此れは「人体展」の老化を説明したパネル。基本的にリンは老化を促す効果が在ります。骨髄で「リンは充分である」感知すると。腎臓に「リンを捨てる」ように指示します。その結果骨からオステオカルシン(蛋白質)が分泌され若さが保たれます。
私達は産業革命の恩恵に浴して大都市で便利な生活を満喫しています。人体が旧石器時代のDNAで出来ていることを嘆いても如何ともし難いのです。この便利な生活を捨てて狩猟採取時代に戻る事は出来ません。せめても出来る事は漢方に視るような複眼的視座を持つ事です。抗生物質や強い薬に依存する事は避けて、未病状態から可能な限り「陽」の方にベクトルを方向転換する事です。俳句も良し、工芸も良し、可能な限り手足を駆使した生活をする事のようです。