京都の保津川は渓谷を過ぎて、嵐山渡月橋を越す辺りから名を「桂川」に変えます。
そして山崎を超えた辺りで、淀川に合流します。
桂川が「月の名所」であった事から、藤原道長が別荘を立て、桂宮家は桂離宮を数代に亘って建築しました。
中国では「月には桂が生えている」故事があります。
桂林の名は金木犀(中国では桂)が多い事に拠っています。(桂林観光局のHPから転載)
私が中国の景勝地「桂林」に始めて訪れたのは30年前でした。
勤務先の銀行が職員に”兵隊から管理職になるのだから、少し視野を広くしなさい”そんな意図で『研究休暇』をくれました。有給休暇ですから「レポート」の提出が義務付けられています。
当時は中国本土への経済窓口は「広州」で「広州広益会」「広州特別区」等の活字が躍っていました。
香港から広州に入り・・・・・、研究報告はそこそこに、ボロい飛行機で桂林に入りました。
「南画の世界を目で見てみたい」思っていましたから。
私は桂林の名から、「桂の林」がある地だと想像していました。
ところが、中国の桂とは「金木犀」の事で、
桂林は「金木犀が林のように沢山植えられている地」の意味であると言います。
偶々、金木犀の花が盛りの季節でありました。
何故、金木犀のような潅木を植えるのだろうか、材木としては価値が無いじゃないか?
思いました。
金木犀の花を漬け込んだ桂花陳酒は桂林の名産です。
疑問は直ぐに解けました。。
金木犀の花を酒に浸けた「桂花陳酒/けいかちんしゅ」が此処の名産品であったからでした。
何処の酒家(レストラン)でもこの酒が出されました。
その度ごとに現地ガイドが説明します。
「貴方達は幸いです。今が桂林は桂花が盛りです。
桂花陳酒とは、桂花(金木犀の花)を白ワインに漬け込み、2,3年熟成させて香りづけをしたものです。
楊貴妃が命じて造らせたお酒です。清朝時代には宮廷の秘酒でありましたが、今では盛んに作られています。」甘くてフルーティーで、芳醇な味わいを楽しみました。
金木犀の良さは「強い芳香」が第一、次いでは落花の美しさでしょう。写真は東慶寺の門前です。
この花を酒に漬け込んで、芳香をお酒に移します。
金木犀を日本酒に入れてみました。当然花は浮いてしまい、香りは酒に移ってくれませんでした。
日本人は奈良時代の桂の字を「桂の木」に当てました。
木偏に「圭」ですから、
見た目も綺麗だし、木目も美しく、柔らかいので加工もしやすい、加えて良い香りもする・・・・・、
「良い木」は桂だと直感したのでしょう。
佳人とは「美人」の事であります。
同じ頃「椿」の字を「木偏に春」だから「つばき」を当てました。
中国ではchun(ちゃんてん)と言う栴檀科の潅木で、日本名「庭漆」でありました。
欅(けやき)も中国では胡桃(くるみ)の事です。
日本人の感性で漢字を大和言葉に当てはめたのでした。
万葉仮名はそうした日本人の創意の成果でしょう。
金木犀も鎌倉ではこの1週間でお終いでしょう。
私は「桂」の木が大好きです。
小学生の頃、初めて版画を作りました。
その時、「良い香りのする木だなあ」鼻に押し当てて嗅いで見ました。
秋、一番早く黄色くなります。
葉っぱはハートの形をしています。
でも、薄い葉ですから、光を通してしまいます。
風が吹けばヒラヒラ大地に散ってしまいます。
地上に落ちた瞬間から素晴らしい香りを発します。
味噌蔵の香りです。
馥郁とした、醗酵する香りです。
きっと桂の葉は醗酵菌に直ぐに溶けてしまう性質があるのでしょう。
平安時代、京都仏師の定朝はヒノキの木を使って阿弥陀様を彫刻しました。
桂の木の方が彫刻はし易いし、木肌も細かいし、割れる事もありません。
でも、ヒノキを使いました。
私は想像します。
きっと木肌が白くて、京女の雅や色香があったからではないでしょうか?
ヒノキを使っても白い木肌は金箔の下に隠されてしまいます。
衣を彩った塗料に塗られてしまいます。
でも、仏像の材をヒノキに限ったのは、「雅」を追い求めたからでしょう。
同じ頃、東国の仏師は好んで桂の木を使いました。
桂の香りや木肌を愛しました。
だから、金箔や塗料の使用は抑えて、意図して木肌を活用しました。
でも、丸い彫刻刃でリズミカルな模様を彫ってみました。
これを後世の人は「鉈彫り」と言ってほめあげました。
ヒノキが京女なら桂は東男でしょう。
定朝が弥生文化なら、鉈彫りは縄文文化でした。
日向薬師は桂の素材を活かした「鉈彫り」で有名です。(伊勢原観光協会HPから転載)
桂材と仏像のについては:http://blogs.yahoo.co.jp/yunitake2000/43981421.html に書きました。
鎌倉時代、興福寺仏所の運慶は鎌倉で数体の仏像を仕上げました。
その迫力は東国武士の心を打ちました。
その伝統は仏像需要が廃れても、仏具の彫刻、そして江戸時代にか家庭の家具や食器具に活かされました。
「鎌倉彫」と呼ばれるブランドになりました。
鎌倉彫は今も桂の材を使います。
伝統は1000年、革新は片時もストップしません。
伝統と革新を両輪にして文化は前に進みます。
鎌倉中央公園の「桂の林」。香りが良いので子供達がこの林で遊んでいます。
一番早く秋の訪れを知らせる樹木です。
鎌倉では近年意図して桂の木を植えているようです。
鎌倉中央公園には桂の林があります。
桂の街路樹もあります。
桂の木が大きくなったら、倒して子供達の使う版画板に、お箸置きなどの家庭具に使ったら良いと思います。
鈴かけの街路樹も良いのですが、桂はもっと素敵ですし、文化の伝統があります。
太くなりすぎた街路樹は伐採し、新しい木に植え替えるべきだと思います。
その時には桂を植えて、「桂の木は1000年の歴史がある」教えて欲しいと思います。
桂の樹下から梢を見上げると、総ての憂いが消えるような爽快感があります。
桂の梢が好きな四十雀。虫が多く集まるので野鳥が集まります。コゲラも良く見かけます。
湘南で最大の桂は遊行寺にあります。姿形の良い樹です。
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