お正月には子供や孫が集まってくれます。
家内は精を出しておせち料理を作って、丁寧に、綺麗にお重箱に詰めます。
お重箱は、結婚祝いに叔母様から戴いたものです。
目で愛でて、舌で悦び、胃が歓迎する・・・・、そんなおせち料理が・・・・、
平凡な主婦でも出来るのが日本の家庭であり、日本の料理でしょう。
ゆっくりと時間をかけておせちを味わい、
孫を中心に団欒を楽しみながら・・・・・、平和なお正月を今年も過ごせました。
我が家のおせち料理・・・・、孫を中心にして団欒の花が咲きました。
我が家のお雑煮は関東風で、四角い切り餅です。
家内も何時しか母の味付けを覚えてくれて…、私にとっては、昔ながらのお雑煮です。
お雑煮を食べて…、家族の一員であると実感します。
本来の雑煮餅は京風の丸餅です。
何故なあ丸餅にこそ年神様が依るからです。
神様は四角より丸が・・・、鏡餅がお好きです。
江戸時代、江戸の街には長屋住まいの武士・町人が多かった事から、
切り餅が普及したのでしょう。
京風の一子相伝のお雑煮が食べたくなります。
何しろ私は術後半年でも、食いしん坊ですから。
昨年9月農林省はユネスコに伝統的な日本の食文化を「無形文化遺産」に指定するよう申請致しました。
今年の秋には結論が出る事でしょう。
そんなこともあって、家内を誘って1月2日三溪園に「四条流包丁式」を観に出かけました。
此処に和食のルーツがあるからです。
港北区にある興禅寺の雅楽会が厳かに雅楽を奏上するなか神事「包丁式」が始まりました。
補佐役が用意された包丁を確認します。左の白装束の人が介添え役です。
包丁主が登場する前に、道具や素材の確認の動作が続きます。
興禅寺雅楽会の厳かな演奏に送られて、包丁式が進みます。
四条流の包丁式は、光行天皇(在位884年~887年)の勅命によって、
藤原山蔭(内膳職)が整備した事に始まります。
古墳時代日本人は手喰いでありました。(魏志倭人伝などに記載があります)
聖徳太子が遣隋使を派遣し、中国ではお箸が一般化している…、事実が伝わります。
すると、日本でもお箸が普及します。
その後、唐から伝わった食事作法料理手法と日本の食習慣が混乱します。
それが、日本風に消化され定着してきていたのでしょう。
それを光行天皇が有職故実という形に結実させたのでした。
包丁式で包丁主登場を待つまな板。「ま」とは優良なもの、「な」とは素材の意味だそうです。
まな板とは「優良な料理板」の意味でしょうか? 四方に注連縄が張られ、清めの塩も盛られまし た。まな箸、まな紙、松竹梅の花、そして素材の鯛も置かれています。花と鯛はお正月だから目出 度いものを・・・、用意されたものと思います。多くは鯉が使われると思います。
百人一首中で女性が一番好きな歌
君がため 春の野に出て若菜摘む 我が衣手に雪は降りつつ
は光行天皇が親王の時代につくられたものです。
貴方のために邪気を祓う若菜を摘みに野に出ましたら・・・、雪が降り出して私の袖にひきりなしに降りました。(でも、こうして若菜を贈りますから、健康にこの一年お過ごしくださいね!)
七草や七草粥の風習は天皇崩御後一般化したと言われます。
日本食文化のルーツは感性に富んだ天皇にありました。
包丁主が道具を確認します。その後、周囲の邪鬼を祓い、自らの心身も浄めます。
包丁式は道具の確認、お浄めに始まりました。
まな紙で陰陽道に沿って作られた”まな板”を浄めます。
その四方に塩を盛ります。
包丁で邪気を払います。
”六根清浄”包丁主の心も体も浄めます。
大きな鯛がまな板の上に乗せられました。
包主も介添えも・・・・、全員が素材の鯛に向かった平身低頭し・・・・「鯛さまのお命を戴きます」・・・、
礼を尽くします。
決して手を鯛にはつけません。
左手にまな箸、右手に包丁、この二つだけで、速やかに鯛の頭と尻尾を切り除き、
次いで、体を三枚におろします。
先ず鯛の頭と尻尾を落します。
次いで鯛の体を三枚におろします。まな箸と包丁だけを使い素材に決して手は触れません。
”清く・美しく”が包丁式のテーマだからです。
包丁式に使う包丁は日本刀と同じく片刃です。
良く切れる…、多分世界一良く切れる包丁でしょう。
良く切れるから…、お刺身が出来ます。
良く食材を知り尽くしているから・・・・、日本人だけが「延髄切り/生き締め」を知っていました。
日本のお箸は先が細くなっています。
細い先で…、食材を挟んで口元に運びます。
箸は「挟む」に由来するとも言われます。
箸のもう一方は太くなっています。
太い方で神に奉げる食材を挟みます。
おせち料理も「神身一体」で戴くことに有難味があります。
包丁も箸も、美しく清らかに食べる為に欠かせません。
和食の神髄は「美しく、清らかに食べる」ことにあると思います。
それは、縄文時代からの変わらぬ伝統でありましょう。
最後に鯛を切り身を細く連ねて・・・・、波を模ります。
包丁式は礼に始まり礼に終わります。
包丁主はじめ全員が低頭しているのは素材になった鯛の命に向けてです。
包丁式には登場しませんでしたが、
もう二つ大事なものが「和食器」と「発酵香味料(醤油や味噌など)がありましょう。
世界に愛されているお寿司は美しく切り刻まれた寿司ネタと、
酢飯のシンプルな組み合わせによってできています。
手を加えていない食材(ネタ)と熟成された酢によって豊かな食味が作られていると思います。
包丁式の伝統の上に出来たお料理が寿司だと思います。
寿司が欧米にも人気なのは・・・・、
発酵香味料の酢が欧米の発酵食材(バルサミコ・チーズ・ヨーグルト・アンチョビ等々)にもあって・・・・、
馴染まれているからだと思います。
日本料理は健康に良いから…、メタボ対策になるから・・・・、長い間、そんな目で見られてきました。
ところが、最近はもう少し理解が進んで・・・・・、
素材そのものの味が楽しめるから・・・、そんな所に来ていると思います。
包丁式も終盤に差し掛かりました。
包丁主は大きなまな板の上に鯛の切り身を使って・・・・、何やら・・・、美しく盛っています。
解説が入りました。
「最後は波を模っています。これでお目出度い宝船が出来上がりました。
今年一年の天下の平安と皆様のご多幸をお祈ります。」
満場の拍手が湧きあがりました。
雅楽の調べに送られて、包丁主、介添人等式典のメンバーが退場しました。
食文化こそ、文化の精髄である…、実感する「包丁式」でありました。
健康でいるからこそ、美味しく食べられる。
美味しく食べるには・・・・、清く、美しい和食に限ります・・・・、そんな食文化を楽しみたいと思います。
鯛を使って宝船が出来上がりました。