鎌倉の若宮大路は年年歳歳変わってきます。
新しいビルが建ち、新しく出店します。
昔ながらの建物は残り少なくなってしまいました。
そんな中で、昔ながらの店構えで、繁盛しているお店があります。
「三河屋」さんがそんな店の筆頭で・・・・、店を覗くと大変に楽しいものがあります。
特にお正月は賑やかにお店飾りをされますので・・・・、入店する楽しみも普段のそれに倍増します。
若宮大路に面した「三河屋」さんの表面。間口5間ですが奥行8間の総二階の伝統建物です。
店と蔵が国と鎌倉市の有形文化財等の指定を受けています。
サザエさんに登場する「三河屋さん」は酒屋さんです。
鎌倉の三河屋さんも酒屋さんです。
何故、酒屋と言えば「三河屋」なのか? 訳は良く解りません。
江戸庶民にとって、廉価で親しみやすいお酒が三河だったのでしょうが・・・・、
三河には味噌屋はあっても酒屋は余り聞きません。
鎌倉の三河屋は明治33年創業で、現在の店舗は昭和2年竹内福蔵氏が建てたものだそうです。
そのお嬢さんが婿さんを取ってお店を守り続け、現在も店頭に出て商っておいでです。
昔ながらの帳場こそありますが・・・・、其処には座られずに店先で絶えず動き回っていられます。
でも、昔からの店飾りは変わらないようです。
昔ながらのお道具も大事にされて・・・・、お店狭しと陳列されています。
女将さんは、大事にされている事・・・・、思い出が染みついていて捨てられないのでしょう。
一人で甲斐甲斐しく働く女将さん。店内には女将さんの愛情が満ちています。
天井の根太や長押の太さに感嘆します。
北側の冷蔵棚の上に飾られた看板。手前が餅花飾りです。
お店南側の棚。徳利は「三河屋」と書かれたものと「八幡前」と書かれたものと二種類あります。どちらも当店 の特注でお得意さんに配ったものでしょう。右上段奥に角樽があります。その上の天井は「根太天井」です。根太の太さが柱程もあります。感服する頑健な作りです。
壁には看板が二枚も飾られています。
「安福又四郎吟醸」と書かれています。
今はその蔵元も無くなってしまったので・・・・、看板は店頭に架けられなくなったのでしょう。
蔵元も減ってしまいましたが・・・・・、酒屋はもっと減ってしまいました。
量販店には敵わないようです。
でも、お酒は地元の酒屋さんで買わなくちゃ・・・・、私のモットーです。
反対側の壁には棚が設えられていて・・・・、三河屋の徳利をはじめ、
べコ人形や招き猫や福助などの縁起物、結婚式や棟上げで使った角樽が所狭しと並んでいます。
”角樽はご結婚された時使われたのですか?”
聞いてみたかったのですが・・・、少し気が引けました。
杉玉に並んで大きなスズメバチの巣が飾られています。
あれは何ですか?
尋ねると・・・・、
「スズメバチの巣なんですが・・・・、信濃の蔵元さんが置いて帰られたので・・・・、
仕方ないので飾っているんです・・・、」
意外に素っ気ないお答えでした。
お正月らしい店内の飾りが楽しいものです。
此方はプラスチックを使った現代風の餅花飾りです。
餅花の奥にスズメバチの巣がアクリルケースに収まっています。
美しい向かいながらの帳場です。
帳場の前にも餅花が飾られています。小さくても本格的です。
凧が多く飾られているのは・・・・、お正月だから・・・・、景気や運が上向け・・・、
と言ったお呪いでもあるのでしょう。
そして、何とも賑やかなのは・・・・、餅花飾りです。
「餅花」とは丸めた餅や団子を柳やミズキの枝に刺して・・・・、
作物の豊かな稔りを祈念した”予祝飾り”です。
越後が始まりと聞きますが・・・、信濃や相模では繭玉飾りになります。
お蚕が良く出来ますように・・・・、繭を模ってお餅を飾ったのでした。
飛騨高山では「花もち」になります。
先月行った湯布院でも餅花を見ました。
柳の枝に紅白のお餅・・・、と言った本格的な物も飾られていますし、
プラスチック製のお飾りもあって・・・・、それは賑やかです。
桃の花のようにも見えます。
女将さんに”綺麗ですね”声を掛ければ・・・
笑って”お正月ですから” 答えられます。
娘のころから・・・餅花を飾って・・・・・・、
”今年も良い事が続きますように・・・、お店が繁盛しますように”
祈ったのでしょう。
古時計の下には黄ばんだポスターが貼られています。
その左に神棚があって・・・・、右側には伊吹文明文部大臣のサインが付いた国の「有形文化財」のお墨付きが架けられています。鎌倉市の重要建築物の指定の文書も架けられています。
間口が5間もありますから立派です。
でも、脇道に入ってみると奥行が8間もありますから・・・・、大規模なお店です。
現状は大きな建物の三分の一程度しか使っていないので・・・・、経済的には不合理にも見えます。
若宮大路にお面した130坪もの建物、広大な敷地を使い切っていないのですから・・・・。
二階部分は若宮大路側にオーバーハングした「出桁造り」になっています。
正面に大黒柱以上に太く長大な鴨居があります。
鴨居に太い根太が乗っかって・・・・、根太天井が広がっています。
根太天井の上は二階部分を支えています。
根太の下が道路に向けて庇になっていますから…、お客さんはお店に入りやすくなっています。
これが、井桁造りの工夫です。
宿場町や古い商店街では一般的な造りでした。
現在はアーケードになっていますから、井桁造りは流行りません。
この頑丈さなら・・・、関東大震災にも歪まなかったであろう・・・・、思われます。
頑健な昭和初めの建物に・・・・、可愛く綺麗に飾ったお店のバランスが良いんです。
そして、現代では稀にしか見られなくなった餅花飾りが良いんです。
私は酒粕を求めました。
女将さんは
「酒粕なら・・・・、八海山か玉乃光(伏見)です」
私は魚沼が好きですから八海山にしました。
先の地震で傷んだ酒蔵も修復されて・・・・、今は雪の中仕込みに励んでいる事でしょう。
酒粕は鍋に良し、甘酒に良し・・・・、使い道は広いもんです。
店先には「鎌倉五山(沼田の永井本家醸造)」や「古都鎌倉」等も並んでいます。
純米酒は未だお預けです。
女将さんは「何故、お酒を買わないの?」
不審気です。
これが井桁造り。1階上部に太い長押を置き、その上に頑丈に根太を組んで、二階部分をオーバーハングし ます。店先が二階部分の庇の下に入りますから…、お客さんは便利です。 木組みの頑丈さに感服します。