朝、窓を開けます。
綺麗で、少し涼しい風が室内に入ってきます。
最低気温が26度でしたから・・・・、その程度の空気が室内を満たすのでしょう。
山からは蝉しぐれが、庭からはコオロギの鳴き声が競う様に響いてきます。
我が家の番犬(チコ)は3代目です。
3代目はもう10歳になります。
無駄吠えはしませんし、手のかからない犬です。
今年の夏の暑さには、応えている気配があります。
食欲がイマイチですし、満天星(どうだん)の根元を掘って、体を半分土に埋めています。
地中に体を埋めれば、涼しいのでしょう。
食が進んでいるか?
良い形のうんこが出ているか、観察します。
今朝は、そのチコが少し燥いで(はしゃいで)います。
手前が我が家の番犬のチコ、見詰める露草の草薮の中には青大将君が潜んでいます。
私は毎朝、ペットに餌を配って廻ります。
鶉も、鳩も、ウサギも皆暑さにめげずに元気なようです。
ペットが終われば植物に水遣りです。
朝顔も綺麗に咲き揃っていますし、朝は夕顔の花も良い顔をしています。
チコが後ろ向きに飛びました。
何者かが、チコに向けて飛びかかったのでした。
それは、青大将です。
朝から青大将が庭に出現、チコがじゃれて、青大将君が我慢しきれず、逆襲に出たようです。
驚いたチコは、もう尻尾を下しておじけついてしまったようです。
私が満天星の樹下の茂みを覘いてみると・・・・・・、青大将がとぐろを巻いています。
そのうちに青大将も植え込みの陰に隠れてしまえば、チコも安心して静かになる事でしょう。
青大将君に一喝されて、怖気づいたチコ、恨めしそうな表情で草薮に潜んだ青大将を見詰めています。
突然に”キーッ・キーッ”鋭い鳴き声が響きました。
瞬間、青大将君がチコに悪戯されて、鳴いたのかと思いました。
でも、蛇が鳴く筈ありません。
私は改めて青大将の隠れている茂み・・・・、露草の葉陰を見詰め直しました。
相変わらず青大将はとぐろを巻いています。
とぐろの中心に灰色の物体があります。
瞬間岩かと思いましたが・・・・・、その岩に青大将が嚙付いています。
目を凝らせて見ると、岩と思った物体は大きな鼠で、青大将は鼠の頭に嚙付いているのでした。
先刻の”キーッ・キーッ”といった声は鼠の断末魔の叫び声だったのでした。
露草の葉陰で鼠君を頭から呑み込み始めた青大将。
鼠はチコの食べ残しを求めて出現しました。
ところが、そんな行動を青大将は予測していて、満点星の草陰で待ち伏せしていたのでしょう。
青大将が鼠を睨みつけました。
鼠は蛇に睨まれて・・・・、身体は凍り付いてしまいました。
青大将は素早く鼠の体を締め付けて・・・・・、鼠は窒息して息絶えたのでしょう。
もう少し、正確に云うと次のようになります。
鼠君が何時ものように露草の茂みを通って、チコのエサ入れに近づきました。
ところが、今朝は青大将がいます。
鼠君は利口で、蛇は眼が弱い事を知っていました。
ただ、蛇は動く者に反応するんです。
鼠君は蛇を確認した瞬間、逃げるか、このまま静止したままでいるか・・・、判断しました。
この草薮の中では逃げ切れないだろう・・・・。
一か八か静止して、岩の様になっていたら・・・・、逃げ切れるかもしれない。
後ずさりしながら、呑み込み、同時に安全に呑み込める場所を探す素振りの青大将君。
全長2m弱、太さ5㎝程の大きさでした。
ところが、鼠君の期待に反して、既に青大将は鼠君を確認していました。
眼は弱いのですが、嗅覚は鋭いのです。
嗅覚で鼠君はキャッチされてしまっていたのでした。
静止している鼠君の体に巻き付いて、全身に力を込めて締め付けました。
気絶した鼠を頭から呑み込み始めました。
でも、青大将の口に比べて鼠の頭は8倍も大きいのです。
呑み込めまい・・・、思われます。
どうなるのか・・・・・、私は観察することに致しました。
鼠の頭を咥えたまま、青大将は後ずさりしてゆきます。
そして、植木鉢の陰に身を悴めました。
長い体を丸めて、獲物の鼠が息を吹き返しても逃げられないように、
万全の体勢を体勢に持ち込んだのでした。
後はからだに力を込めて、グイグイと呑み込んでゆきます。
驚くのは、先ず顎の骨が外れて、大きく開く事です。
次いで、体の骨も外れて、喉元から体全体がゴム風船の様に膨らんでゆきます。
見る見る、鼠の頭は呑み込まれ、体も、大半が呑み込まれ・・・・、足と尻尾だけになってしまいました。
もう、耳は呑み込まれてしまいました。
もう、脚と尻尾を残すだけになってしまいました。呑み込み始めて10分と経っていません。
蛇の骨格は背骨があって、背骨から細い骨が丸い体を囲っているのですが・・・・、その細い骨が外れる 仕組みになっています。お蔭でゴム風船のように体は伸び縮み出来るのです。
伸びると鱗が小さく見えます。
尻尾の方から波の様にウネリが生じて・・・・、グ・グーッと呑み込んでゆきます。
蛇の眼は蛇の目と呼ばれる丸い目ですが、たいした視力はありません。
口先に小さな鼻孔がみえますが、獲物を追いかけるのは嗅覚だと言われています。
青大将君は今朝こんなに大御馳走を食べたのですから・・・・、
今後数週間は何も食べずに植木鉢の陰で寝て過ごすだけでしょう。
口に歯があるわけでもないので噛み砕くこともありません。
胃袋に収めて、消化液で溶かすだけなのでしょう。
鼠君は運が悪かった・・・・、気の毒には思いますが、仕方ありません。
我が家の庭も一つの生態系があって、その営みの一環なのですから。
こうして、青大将も役割を果たしながら、命を繋いでゆきます。
一匹鼠君の命が犠牲になったので、鼠は彼岸過ぎまでは先ず青大将に狙われる事は無いでしょう。
それまでは、安心してチコの餌を盗み食いすることができるでしょう。
でも、彼岸になればチコも食欲が復活して、食べ残しをしなくなることでしょう。
狭い我が家の庭ですが・・・・、それなりに自然の生態系が回っていて・・・・、
夏から秋に変わって行きます。
此方は青ガエルを呑み込む山かがし。この山かがしは子供なので派手な警戒色をしています。
山かがしの好物は蟇蛙です。蟇蛙はイボに毒があるので、「俺を吞めるなら呑み込んでみろ!」
言わんばかりに逃げません。
この逃げない状態を”蛇に睨まれた蛙”と呼びます。
でも、強い者に睨まれて足がすくんで逃げられなくなったのではなく、凄んで見せたものです。
ところが山かがしは蟇蛙の毒に侵されることなく、その毒を体中に蓄積します。その毒が毒蛇の謂れです。
(撮影、鎌倉広町緑地)