大船駅東口、駅頭を下ると沢山の中学生、高校生が家路に向っています。
私は生徒さんとすれ違います。
生徒さん達はそれぞれに談笑しながら歩いてきます。
秋の陽射しは生徒達に一際明るく照らし出しているように感じます。
もう、50年も前、私も向こう側で、同じ制服を着ていました。
柏尾川から植木の山を眺めると、一際鮮やかな黄葉が二本立っています。
貞宗寺の銀杏が輝いています。
私の足は黄葉に誘われるように、参道を登って行きます。
大銀杏の樹下で、ご住職が竹箒で掃いておいでです。
これから暫くは、大銀杏の落ち葉掃きが続きことでしょう。
(鎌倉植木にある貞宗寺はお愛の方縁故の尼寺でした。岡本のマンション群を見下ろす位置にあります)
実は私の父も住職でした。
私の箒目を見ながら言ったものでした。
「箒目を見れば、人柄が解るものだよ!」
わたしは、銀杏の葉っぱを掃いた後の竹箒の跡を見ました。
右に左に揺れていました。
以来、箒目が一方に向くよう、掃いた跡も美しいよう、心がけました。
今では、ご住職が箒を使っている姿は滅多に拝みません。
(最近は何処の寺でも見かけるお掃除小僧さん、でも箒目をたてるお坊様は見かけなくなりました)
ご住職が言われました。
「天然記念物のイチイの木が枯れ始めて、心配なのですよ!」
見れば、確かにイチイの古樹の北半分が枯れてしまったようです。
老衰なのか、それとも虫がついたのか、わかりません。
もしかしたら、烏瓜が絡みつき過ぎたのかもしれません。
烏瓜の青葉が枯れて、朱色の実だけが残った。
気づいたら、イチイの木も枯れ始めていた・・・・・、
ご住職はビックリしたのかもしれません。
(本堂前のイチイの古木/天然記念物、芯木が枯れてしまいました)
(あたり一面の木を覆い隠していたカラス瓜、今は朱色の実だけが残っています)
私は本堂から、裏手の竹林に向います。
秋は「竹の春」とと言います。
竹が一年中で一番美しい季節なのです。
(貞宗寺裏山の竹林、左手本堂の前の木は紫木蓮、春には紫大根の花が一面に咲きます)
竹は地下茎で繫がっています。
だから、数十本の竹が実は同じ体なのです。
春になれば、体の生命力を集中して筍を芽生えさせます。
筍は1日に30センチも伸ばします。
全栄養を新しい命に集中します。
ですから、既存の竹は葉を落とします。
春は「竹の秋」と呼ばれます。
秋になれば、筍も大人並の背丈になります。
栄養は竹全体に及びます。
従って最も美しくなります。従って秋が「竹の春」になる訳です。
でも、それだけではありません。
これから厳しい冬です。
雪が降り積もります。
竹は強靭な力を蓄えて、雪を撥ね退けなくてはなりません。
ですから、体は堅固にならなくてはなりません。
この季節に竹を伐採します。
竹細工は冬の竹を使います。
竹箒も竹垣も冬竹を使います。
(紅葉の盛りはもう5日ほど後でしょう)
11月、今年の防災訓練でも挨拶しました。
「直下型大地震の起きる確率は今後30年間で80%、予測されています」
統計上は凡そ、120年周期で地震がおきるのだそうです。
通常竹には花が咲きません。
でも、イネ科の植物ですから、花が咲き、種がなります。
120年周期で。
種族を残そうと全生命力を種に注ぎます。
結果、竹は枯れてしまいます。
地下茎で繫がっていますから、通常竹林全体が一気に枯れてしまいます。
不気味な光景が現出します。
竹に黄金ならぬ種が実ります。
ネズミが大発生します。
翌年、鼠害が発生、飢饉になると言われています。
従って「竹の花」は不吉な予兆として嫌われます。
(竹林は気をつけて歩かないと女郎蜘蛛の巣を壊してしまいます。腹が倍ほどに膨らんだら出卵して親は死 んでしまいます。もう直ぐです)
ご住職はもう竹を伐採されていました。
この竹を使って、境内をもう一段整備される予定なのでしょう。
根元に椎茸を栽培されています。
厚い傘が充実して、美味しそうな椎茸が出来ていました。
私の父も椎茸栽培が大好きで、
境内の椎の木や裏山のクヌギや栗の木の枝を伐採しては、椎茸を植えていました。
収穫した椎茸を焼きながら、ビールを飲んで、楽しんでいました。
住職にお声をかけます。
「ご立派な椎茸ができましたね!」
住職は笑いながら応えられます。
「今年はね、秋が遅かったからでしょう。今頃になって椎茸が出てきましてね・・・・・・」
屹度、住職は私の父がしていたように、晩酌のお供に椎茸を頂戴するのでしょう。
(竹林で今年も収穫された椎茸)
私も父と同じ年頃になりました。
キノコも冬野菜も栽培できずに過ごしています。
でも、季節を本当に楽しむのならば少しばかりの菜園をするのが良いのですが。
それも出来ずに、思い出に、目で追いながら、季節を楽しみます。
ひとむらの 竹の春なる 山家かな (虚子)
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